RSVP’s COLUMN

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英国刺繍作家の手仕事日記①

1998年、ロンドンに住み始めたことがきっかけで、憧れの英国王立刺繍学校(ROYAL SCHOOL OF NEEDLEWORK *RSN)に5年間通い、数多くの英国刺繍を習う機会に恵まれました。同時に英国刺繍の奥深さを知ることになり、それ以来生活の中心は刺繍一色、料理の手は抜いても刺繍には妥協を許せなくなってしまうほど没頭しました。その後、チェルシーの自宅で英国刺繍を教える一方で、自分でもアダルトスクール(地域の住民が資格コースなどを学ぶために通う場所)で英国の手仕事を習い始めました。Upholstery(アンティークの椅子の張り替え)、タッセル作り、額装クラス、ソフトファニシング、クッキング、フラワーアレンジメントなど、様々な習い事を経験しました。20年間イギリスで暮らし、日本に拠点を移してから英国スタイルの教室を主宰していますが、私の刺繍作家としての原点は、間違いなくRSNにあると言えます。

ハンプトンコート宮殿の一角にある英国王立刺繍学校

RSNは、ロンドン郊外のサリー州にある16世紀に建てられたヘンリー8世のお城(別荘)、ハンプトンコートパレス内にあり、創立は1872年。当時一般の家庭婦人に流行していた安易な刺繍に対し、教会刺繍を基にした新しい『芸術刺繍』の様式を統一しようとしたウィリアム・モリスらの運動に影響され、上流階級の婦人の品位をけがさない職業としての刺繍技術を教える場として設立されました。当時のヴィクトリア女王から現在に至るまで王室の仕事を一手に担い、世界中の文化財の修復も引き受けており、その技術を学びたいと世界中から人々が集います。

英国刺繍には代表的な技法が8種類あり、その中でもよく知られているのはゴールドワークです。ゴールドワークは、金糸やメタルを使ったローマ時代から続く豪華な刺繍で、富と権力を表す刺繍。特に英国のゴールドワークは世界で一番美しい刺繍と言われ、昔は英国から欧米各国へ輸出していたそうです。教会関係の装飾、法衣、コスチューム等に多く見られ、その伝統は今も引き継がれています。

エレガントなホワイトワークも人気があります。このスワンがモチーフとなっている作品は、数年前ロンドンのコベントガーデンで上演されたロイヤルバレエにインスパイアされ、1年をかけて完成した、難易度の高いホワイトワークです。

そして、英国で16世紀に特に人気のあった刺繍は、スタンプワークと呼ばれる立体刺繍。スタンプワークは自由な発想で作ることができるのが特徴で、初心者にも楽しめる刺繍です。使用する素材も自由、アイデア次第で様々なデザインを楽しめます。16世紀当時は5歳になると家庭教師から刺繍を習う習慣があったそう。ロンドンのビクトリア&アルバートミュージアムには5歳、8歳、12歳の子が作ったスタンプワークが展示されています。

このスタンプワークを手掛けるスペシャリストが、私の師であり、著名刺繍作家であるJenny Adin Christie。ジェニー先生は英国王立刺繍学校で教えた後、キャサリン妃のウェディングドレスやカンタベリー大聖堂の掛け布の刺繍を手掛け、ホワイトワークやゴールドワークにおいても大変評価の高い人気刺繍作家です。前述のスワンのホワイトワークもジェニー先生の指導を受けて完成させました。ジェニー先生のアトリエでのクラスや先生が主宰する合宿のお話は次回の日記で詳しくご紹介します。

スイスの合宿にて。右がJenny Adin Christie、左が筆者。

Works ①-⑧ Copyright © Rieko Fukutome

福留 理恵子
1998年から2017年まで20年間イギリス在住。
1999年から2006年まで英国王立刺繍学校在籍、ロンドン・チェルシーの自宅にて15年間英国刺繍とタッセル、ソフトファーニッシングを教える。
ソフトファーニッシングは、Lady Caloline Wray に師事し、タッセルは英国タッセルの第一人者 Anna Crutchley に師事。アップホルストリーにおいてはイギリスの技能検定であるCity Guildの資格を取得。
公益財団法人日本手工芸作家連合会会員
2017年 公益財団法人日本手工芸作家連合会 創作手工芸展でゴールドワークが特別賞受賞、ホワイトワークが入選。
2018年同連合会 手工芸展でスタンプワークが入選。
2018年6月日本ヴォーグ社で個展。
2018年より日本ヴォーグ社 刺繍塾講師
現在東京渋谷区の自宅アトリエで、日本で唯一ジェニー先生のキットを使って教えることが正式に許可されている英国刺繍教室を主宰。
www.englishneedlework.com

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